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聖イレネオ司教殉教者    St. Irenaeus E. M.        記念日 6月 28日


 使徒聖ヨハネの愛弟子聖ポリカルポは156年の1月末小アジアのスミルナで栄えある殉教の死を遂げたが、炎々と燃え上がる火中に立ったこの老人の胸は「恩師ヨハネより受けた信仰はこれをことごとく我が弟子イレネオに伝えたからもはや思い置く事は更にない」という安堵の思いにほのぼのと明るんでいた。そして実際イレネオはその期待を裏切らず、使徒聖ヨハネの温かい愛の心と金剛不壊の信仰とをポリカルポを経て立派に継承したのであった。それは彼の生涯が明らかに看取されるのである。

 聖イレネオの両親は若い時の事に就いてはほとんど何も知られていない。知られているのは僅かに彼が青年の頃スミルナの司教聖ポリカルポの弟子の一人に加わって、その聖師から一生忘れ得ぬ程偉大な感化を受けたという事である。彼は白髪の聖ポリカルポが、なお青春の血の沸き立つ思いで語る若き日の追憶、イエズスと使徒達、わけても主の御寵愛の深かった聖ヨハネに就いての話を、深く深く記憶に刻みつけた。どの話はどこで、師がどんな様子で語られたかというような微細なことまで彼は決して忘れなかったのである。

 彼の生年はもとより確かではないけれども約130年頃と推定される。その篤信の故にポリカルポから厚く愛された彼は155年ある問題に関し教皇ヴィクトルの意見を求めにはるばるローマに上り、そこから更にポリカルポの命で当時ガリアと呼ばれていたフランスの、リオン市に赴いた。リオン市には小アジアの人が少なからず、その司教フォチノもまた小アジアの生まれである所から、同郷のイレネオを喜んで迎え、彼の学徳に秀でているのに感服して間もなくこれに司祭の資格を授けた。
 177年ローマ皇帝マルコ・アウレリオが全国に聖教弾圧を命ずるや、リオン市にも大迫害が起こり、たちまち90歳の老司教フォチノを始め数多の信者が捕縛拘引され、遂に殉教の栄冠を受けた。その時からイレネオはフォチノの遺言によって彼の後任司教となったのである。
 マルコ・アウレリオの次に帝位に登ったコモドの御代は、別に迫害もなく聖会は比較的平和を楽しむ事が出来た。イレネオはこれ幸いと盛んに布教に活躍し、リオン市の大半を改宗させる事に成功した。しかし外患こそなかったものの、内憂はないわけでもなかった。それは信仰の至純い流れをけがそうとする異端の発生台頭である。中でも危険を極めたのはグノーシスの邪説とカトリックとを折衷妥協させようとする一派であった。イレネオはかような異端に対しその豊富な学識と堅固な信仰とを以て闘い、主に託された子羊の群を、羊の皮着た荒き狼の毒牙から救って、よく牧者の責任を果たしたのである。
 彼がその為著した数々の護教書は、残念にも大方失われて、今に伝わっているのは僅かに「異端者に対する弁駁」という一冊しかない。が、兎に角それら彼の名著は、当時の各教会の指導者達にこの上なき破邪降魔の利剣となり、異端の毒蜘蛛の吐く謬説の網をずたずたに切り破るに役立ったのである。
 その論戦の間に彼はまた、ローマ教皇が使徒の首長聖ペトロの後継者である事を否定する教敵に対し、徹底的に反駁し、そのしかる所以を明らかに立証した。
 「ローマ教会は他に冠絶する特権を有している。その祭壇は使徒の首長聖ペトロ、及び大使徒聖パウロに護られ、かつ伝えられたものである。されば他の教会は常にローマ教会と一致を保たねばならぬ」これは中でも最も注目すべき彼の言葉である。
 さてこのイレネオのたゆまぬ活動によって、リオン市の教会はその後も益々盛んになるばかりであったが、その内に青天のへきれきの如く再び猛烈な迫害が聖会の上に落ちかかって来た。皇帝セプチミオ・セヴェロは最初こそ聖教を黙許していたものの侵々として停止する所を知らぬその教勢の発展を見ては、晏如たり得ず遂に全国に聖教の禁止を命じたのであった。
 かくてリオン市の教会からもまたまた数多の殉教者が出る事となった。その中にはもう老齢のイレネオ司教も加わっていた。彼の殉教振りに就いては不幸にして何事も伝わっていない。しかし彼の生涯がそうであったように、その最期も聖ヨハネ聖ポリカルポから受け継いだ信仰を恥ずかしめぬ立派なものであり、彼も恩師と均しく光輝ある永遠の勝利を獲得したであろうことは疑う余地がないのである。

教訓

 我等は聖主や使徒達の時代をさる事甚だ遠いが、なお御聖体の秘蹟によって常に聖主に親しむ恵みを与えられている上に、聖書によって使徒達の精神を汲む事も出来るから。ふるって主に倣い使徒達にあやかって聖教を実行しよう。そうすれば我等も必ずや彼等が永福をうけ楽しんでいる主の御許に招かれるに相違ないのである。

父なる神よ、初心者に完全さを、
小さい者に知恵を与えてください。
自分の道を走る人々を助け、
怠ける者には悲しみを、
なまぬるい者には熱意を与えてください。
完全な者には終わりまで
耐え忍ぶ恵みを与えてください。
わたしたちの主イエズス・キリストによって。アーメン
                  聖イレネオの祈り